東京地方裁判所 平成11年(ワ)11955号 判決
原告 A
原告 B
B訴訟代理人弁護士 中園繁克
同 小林美智子
被告 C
右訴訟代理人弁護士 成瀬壽一
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告らに対し、二〇〇万円及びこれに対する平成八年九月九日から支払済まで年五パーセントの割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告が別件の訴訟において訴訟詐欺を行って原告らに対する勝訴判決を得て、右判決が確定したことから、これにより原告らは、一四六二万五〇〇〇円の損害を蒙った、あるいは、被告が右金額を利得したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得に基づく返還の一部請求として、右損害のうち二〇〇万円の支払を求めた事案である。
二 前提事実(当事者間に争いがないか証拠により容易に認められる事実)
1 原告A(以下「原告A」という。)及び被告は、D(以下「D」という。)と原告B(以下「原告B」という。)夫婦の子であり、原告Aが長男、被告が次男である。
Dは、昭和六一年二月九日に死亡し、その相続人は、妻の原告B、子の原告D及び同被告であった。
2(一) 原告らは、被告及びその妻子などを相手に、大阪地方裁判所に対し、被告ら名義の預金債権がDの遺産であると主張して、被告らにその確認を、銀行に対し、原告らの相続分に相当する金員等の支払をそれぞれ求める訴訟を提起したが(同裁判所昭和六三年(ワ)二四一三号預金債権確認等請求事件、以下「甲事件」という。)、右事件は、原告らが提起していた大阪地方裁判所昭和六三年(ワ)九八四一号損害賠償等請求事件(以下「乙事件」という。)及び被告らが原告Aを相手に提起していた同裁判所昭和六三年(ワ)一二〇九八号損害賠償請求事件(以下「丙事件」という。)と併合審理され(以下、併合後の事件を「別件第一事件」という。)、同裁判所は、平成五年三月一八日、甲事件及び乙事件については、原告らの請求を棄却し、丙事件については、被告らの請求を認容する判決を言い渡した(以下「別件第一判決」という。甲三)。
(二) 別件第一判決は、控訴棄却の判決(大阪高等裁判所平成五年(ネ)七九三号事件)、上告棄却の判決(最高裁判所平成七年(オ)八八七号事件)があり、その結果、別件第一判決は確定した(争いがない。)。
3(一) 原告らは、被告を相手に、大阪地方裁判所に対し、被告名義の株式(紅屋産業株式会社の株式合計六三万八四四〇株、日本ユニホーム株式会社の株式合計二一〇〇株)がDの遺産であると主張して、被告にその確認を求める訴訟を提起したが(同裁判所平成二年(ワ)二七一七株主権確認請求事件、以下「別件第二訴訟」という。)、同裁判所は、平成六年一二月八日、原告らの請求を棄却する旨の判決を言い渡した(以下「別件第二判決」という。)。
(二) 別件第二判決は、控訴棄却の判決(大阪高等裁判所平成六年(ネ)三四二八号事件)、上告棄却の判決(最高裁判所平成八年(オ)四七八号事件)があり、その結果、別件第二判決は確定した(争いがない。)。
4(一) 原告らは、被告を相手に、大阪簡易裁判所に対し、被告名義の紅屋産業株式会社(以下「紅屋産業」という。)の株式合計一万三〇〇〇株(以下「本件株式」という。)がDの遺産であると主張して、被告にその確認とその相続分の確認を求める訴訟を提起したが(同裁判所平成六年(ハ)三一六〇号株主権及び相続財産確認請求事件、以下「別件第三訴訟」という。)、同裁判所は、平成六年一一月三〇日、原告らの請求を棄却する旨の判決を言い渡した(以下「別件第三判決」という。)。
(二) 別件第三判決は、控訴棄却の判決(大阪地方裁判所平成六年(レ)二一五号事件)、上告棄却の判決(大阪高等裁判所平成七年(ツ)三五号事件)があり、その結果、別件第三判決は確定した(争いがない。)。
三 争点
本件の争点は、被告が別件第三訴訟に応訴し、別件第三判決を取得したことによって、原告らに対し、損害賠償義務を負うか否かである。
四 争点に対する当事者の主張
1 原告ら
(一) 被告は、別紙「請求原因」のとおり、被告が、別件第一及び第二事件において虚偽の主張をしたり、虚偽の内容を記載した被告の陳述書を提出したり、さらに、被告本人尋問において虚偽の内容の供述をしたこと等から、別件第一及び第二判決を不当に取得し、そして別件第三事件において、別件第一及び第二事件の判決書や被告の陳述書や本人尋問調書を証拠として提出する等虚偽の立証をしたことにより、別件第三判決を不当に取得し、別件第三事件の裁判官を欺罔して真実と異なる事実認定をさせ、被告が勝訴する内容の別件第三判決を確定させた。その結果、被告は、本件株式を確定的に取得した。
(二) 紅屋産業の発行済株式総数は九六万株であり、紅屋産業の不動産資産の評価等を基準にした実勢株式総額は一五億円以上になることから、本件株式の評価は一九五〇万円となる。本件株式は、Dに帰属するものであり、このうち原告Bが二分の一、原告Aが四分の一をそれぞれ相続したことから、被告は、合計一四六二万五〇〇〇円相当額を不当に取得し、原告らに損害を与えたことになる。
(三) よって、原告らは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得に基づく返還請求の一部請求として二〇〇万円の請求及びこれに対する行為の後である平成八年九月九日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告
(一) 原告らの主張は争う。原告らは、別件第三事件において、被告を相手に訴訟詐欺を主張して控訴、上告を行ったが、いずれも棄却され、さらに、再審、再審上告、再審特別上告、特別上告をして、いずれも敗訴している。また、別件第一及び第二事件についても、控訴、上告を行ったが、いずれも棄却され、さらに再審までして敗訴している。
(二) 原告らの本件訴えは、別件第三事件の本件株式を金銭に換えて請求しているだけであり、本件第三事件と同一事件である。原告らは、主張立証責任に基づいて攻撃防御を尽くした上で敗訴判決を受けたものであり、再審によってしか不服申立をすることはできない。原告らは、矛盾した内容の刑事事件等明白な証拠が存在する等の特段の事情が存在する場合以外形式的に異なる損害賠償請求を起こすことはできない。
第三争点に対する判断
一1 原告らの主張は、要するに、被告が別件第一及び第二事件において、虚偽の主張と虚偽の立証により、裁判官を欺罔して真実と異なる事実認定をさせ、別件第一及び第二判決を不当に取得し、引き続き別件第三事件において、別件第一事件の判決書や被告の陳述書を証拠として提出したり、さらに別件第二訴訟の判決書や被告の本人尋問調書を証拠として提出する等虚偽の立証をしたことにより、別件第三判決を不当に取得し、その結果誤った別件第三判決が確定して、原告らの本件株式の相続が侵害されたとして、被告に対し、不法行為ないし不当利得を理由として、本件株式の相続分相当額の金員につき一部請求を求めるものである。
2 これによれば、原告らの主張する損害賠償請求権は、本件株式の相続分の評価額と同額の支払を求める権利があるとするものであり、原告らの本件請求は、損害賠償の形をとっているものの、その実質は、本件株式の帰属をめぐる原告らの主張が正しいことを前提に、別件第三事件の確定判決に対する再度の審理を求めるものと等しいものといわざるを得ない。
二1 当事者間に判決が確定した場合には、その既判力によって右判決の対象となった請求権の存在することが確定することから、その判決過程において相手方に不法行為があったとして、確定判決の既判力と実質的に矛盾する損害賠償請求を無制限に許容することは、確定判決の既判力による法的安定性を著しく害する結果となることから原則として許されるべきではなく、当事者の一方が相手方の権利を害する意図の下に、作為又は不作為によって相手方の訴訟手続に対する関与を妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行い、その結果、本来ありうべからざる内容の確定判決を取得してこれを執行したなど、その行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定性の要請を考慮したとしてもなお容認し得ないような特別の事情がある場合に限って、その行為は不法行為を構成するとして、相手方は、右確定判決に対して再審の訴えを提起するまでもなく、損害の賠償を請求することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年(オ)第九〇六号、昭和四四年七月八日第三小法廷判決・民集二三巻八号一四〇七頁)。
2(一) これを本件についてみると、原告らは、別件第一ないし第三事件において、自ら訴訟を提起したり、あるいは被告が提起した訴訟に応訴して、それぞれの訴訟で主張立証を尽くしたことから、第一審判決がされ、原告らは、これを不服として、控訴、上告したが、結局第一審判決が確定し、さらに、再審請求等も行ったが認められなかったというものであり、そうすると、被告が、原告らの訴訟手続に対する関与を妨げたという事実はなく、さらに、本件訴訟に提出された全証拠によっても、被告が別件第一ないし第三事件において、原告らの権利を害する意図の下に、虚偽の事実を主張するなどして裁判所を欺罔する等の不正な行為を行ない、その結果誤った内容の判決が確定したという事実を認めることもできない。
(二) また、原告らは、別件第三判決確定後に新証拠が出てきたと主張し、これを甲一一七号証、甲一一九号証及び甲一二七号証として提出するが、右各証拠は、既に別件第一ないし第三事件の審理中に明らかであった事実であるか、そうでないとしても、右証拠によっても被告が虚偽の証拠を提出するなどして裁判所を欺罔したと認めるに足るものではない。
(三) これによれば、別件第三事件における被告の訴訟行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定性を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があると認めるに足りる証拠はない。
四 以上によれば、原告らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないことから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 城内和昭)